昆虫の生殖を利己的に操作する共生細菌に対して宿主が反撃!昆虫が共生細菌のゲノム取り込みを通じて生殖操作に対して抵抗性を獲得した事例を発見
昆虫の生殖を利己的に操作する共生細菌に対して宿主が反撃!
昆虫が共生細菌のゲノム取り込みを通じて生殖操作に対して抵抗性を獲得した事例を発見
岐阜大学、静岡大学、ベルギーゲント大学国際共同研究チームが発表
岐阜連合大学院の 大畑 裕太氏、静岡大学農学部の田上 陽介准教授、杉本 貴史特任助教、ゲント大学(ベルギー)のNicky Wybouw准教授の研究グループは、共生細菌「Wolbachia(ボルバキア)」が宿主昆虫に引き起こす細胞質不和合という生殖操作に対し、昆虫側が遺伝的に抵抗する仕組みを世界で初めて発見しました。
本成果は、Royal Society Open Science(電子版)にて2025年5月22日に公開されました。
【研究のポイント】
?100万種以上いると言われている昆虫の、半数近くの種にはボルバキアという共生微生物が感染しています
?今回調査したトマトハモグリバエにはボルバキアは感染していなかったもののボルバキアの断片がゲノムに挿入されていることが明らかとなりました
?さらにこのボルバキアゲノムの断片は機能しており、種間交雑における不妊化に抵抗性を示すことが明らかとなりました
【研究の背景】
ボルバキア(Wolbachia)は、多くの昆虫に自然感染している細胞内共生細菌です。この細菌は、宿主(昆虫)の卵の中に入り込み、母親から子へと“母系遺伝”で受け継がれる特徴をもっています。
ただ感染しているだけでなく、ボルバキアは、宿主の生殖システムに干渉し、「細胞質不和合(CI)」という現象を引き起こします。これは、感染したオスが非感染のメスと交尾した場合に、受精卵が正常に発生できず死んでしまうという仕組みです。
一方で、感染しているメスだけは、どんなオスとでも子どもを残すことができます。この「不妊トリック」によって、非感染メスの生殖成功率が低下しますが、感染メスの方が子孫を多く残せるようになり、ボルバキアは宿主集団内で急速に拡散することが知られています。これまでの研究で、重要侵入害虫であるマメハモグリバエは、ボルバキアに感染し細胞質不和合現象が起きていること、類似した侵入害虫であるトマトハモグリバエについてはボルバキアに感染していないことを確認していました。
【研究の成果】
今回、我々は日本に生息するマメハモグリバエとトマトハモグリバエの種間交雑、ボルバキアの種間移植、ゲノム解析等を行いました。その結果、日本に生息するトマトハモグリバエとマメハモグリバエは種間交雑が可能だということが明らかになりました。さらにボルバキアの移植実験では、ボルバキアの有無に関わらずトマトハモグリバエは種内?種間交雑で子孫を残せることを明らかにしました。ゲノム解析により詳細に調べた結果では、マメハモグリバエに感染しているボルバキアのゲノム断片がトマトハモグリバエの核に移行していることを確認することができました。この現象により本来は生じるはずの生殖操作(不妊化)が、完全な抵抗性を示すことを突き止めました。
さらに詳細に調べた結果、ボルバキアが持つ細胞質不和合を誘導する「cif遺伝子群(CI因子)」を含む多くの領域の断片が、宿主であるトマトハモグリバエの核ゲノムに水平移動していたことを発見しました。これは細菌から昆虫への遺伝子の引っ越し(水平遺伝子伝播)を示す強力な証拠です。
この発見は、トマトハモグリバエが細胞質不和合のメカニズムを“盗み”、対抗手段として自らのゲノムにその鍵遺伝子を取り込んでしまった可能性を示唆します。細菌による生殖操作に対し、昆虫が遺伝的に「無力化スイッチ」を獲得したという、いわば進化的な逆転劇です。
【今後の展望】
本研究は、昆虫が共生細菌の細胞質不和合に対して遺伝的に対抗する進化的な可能性を示した初の明確な事例です。細胞内共生体の戦略に対して、宿主側がゲノムレベルで防御機構を獲得するという構図は、共生進化のダイナミズムを象徴する重要な発見です。
この成果は、ボルバキアを利用した害虫制御技術(CIベースのバイオコントロール)における予期せぬ耐性の出現やその対策に資する情報を提供します。自然界でも宿主が外部遺伝子(今回の場合は細菌由来の遺伝子)を獲得し、それによって生物間の共生関係が崩れる可能性があります。これは、遺伝子駆動技術の安全性検証にも新たな視点を与えると期待されます。
【用語説明】
マメハモグリバエ、トマトハモグリバエ:
野菜や花きの重要害虫。
マメハモグリバエは1991年に日本に侵入、トマトハモグリバエは1999年に日本に侵入し大害虫となった。
ボルバキア:
昆虫を中心に様々な生物の細胞内に感染している微生物
【研究プロジェクトについて】
本研究は以下の支援によって行われました。
?日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(22K05648)
?東海国立大学機構融合フロンティア次世代リサーチャー(JPMJSP2125)
【論文情報】
タイトル: Suppression of cytoplasmic incompatibility in the leaf-mining fly Liriomyza sativae with a nuclear Wolbachia insert
著者:大畑裕太 Yuta Ohata, 杉本貴史 Takafumi N. Sugimoto , Nicky Wybouw, 田上陽介 Yohsuke Tagami
掲載誌: Royal Society Open Science
DOI:https://doi.org/10.1098/rsos.242137
関連リンク
お問い合わせ先:
(研究に関すること)
代表著者:大畑 裕太(岐阜大学連合大学院)
E-mail:ohhata.yuta.15[at]shizuoka.ac.jp
田上 陽介(静岡大学農学部 准教授)
E-mail:tagamiy[at]shizuoka.ac.jp
(報道に関すること)
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TEL:054-238-5179
E-mail:koho_all[at]adb.shizuoka.ac.jp
※全て[at]を@に変更してください。